節電

甲南学園では今夏、昨年度の電力使用ピークの10%程度を削減することを目標にしています。
ポートアイランドキャンパスでも、照明の間引きや空調の温度設定、エレベーターの一部運転停止など、さまざまな節電対策に取り組んでいます。

節電
(事務室、廊下、階段などでは、照明を間引いて、支障のない程度まで照度を下げています。)

教員の研究紹介(中野先生2)

前回のブログでは、DNAの形の美しさと、この形のおかげで遺伝が可能になることをお話ししました。

それでは、DNAはなぜ螺旋(らせん)状の形になるのでしょうか。あるいは、螺旋でなければならない合理的な理由があるのでしょうか。さらに、化学的な立場で考えると、DNAにはもう1つ大きな疑問があります。それは螺旋がマイナスイオンの鎖によってつくられるということです。どうしてマイナスイオンどうしが絡み合うことができるのか、しかも螺旋状に。とても不思議な現象です。最近の研究でわかってきたのは、螺旋になるにはマイナスであることが重要だということです。これは化学的な理屈になります。こうした螺旋構造になるための理論的な(化学的な)裏付けを利用すれば、DNAの形を人工的に変えたり、人工DNAを開発することも可能になります。

中野図1

DNAのまわりには沢山の水がまとわりついています。この水がなければDNAは螺旋になることができません。生命体にとって水が不可欠である理由をここでも見つけることができます。ペットボトルの水と比べると、細胞に含まれる水は特殊な性質を持っています。この水の役割を調べることで、細胞にあるDNAの性質やはたらきを明らかにする試みも行っています。また、DNAの兄弟分にあたるRNAという物質にも注目しています。RNAはいろんな形になることができ、なかには化学反応を行うものもあります。DNAとRNAの隠された動作原理を明らかにし、遺伝の仕組みを分子レベルで理解することで、医療や産業分野への利用に役立つ情報を提供したり、生命システムがもつ仕組みを利用した有用な人工分子を開発できればと考えています。

私の研究室ではもう1つ、最近になって始めたことがあります。タンパク質を使った研究です。多くの先生の協力によって、ようやく研究を始める環境が整いました。いま注目しているのは、脂肪酸を取り込むタンパク質です。脂肪酸は生活習慣病のリスクと関係すると同時に、健康にも不可欠な物質であり、化粧品や機能性食品などに利用されています。リノール酸やDHAはその代表的なものです。脂肪酸のなかには、DNAに影響して細胞のはたらきを変えてしまうものもあります。体内に取り込まれた脂肪酸を細胞のなかに運び、そしてDNAに作用させる手助けをしているのが脂肪酸結合タンパク質です。細胞の内部は水がとても多い環境です。このため、脂肪酸のような水に溶けにくい脂肪酸は、タンパク質に取り込まれることで細胞に馴染むようになります。どのような脂肪酸がタンパク質に取り込まれやすいのか、どうやってDNAに作用するのかなど、まだわかっていないことばかりです。細胞内部での脂肪酸輸送システムを解明し、その原理に基づいて脂肪酸の取り込みをコントロールできるようになれば、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などの生活習慣病を改善する方法の開発につながると期待されます。

中野図2

細胞で行われる脂肪酸の輸送。脂肪酸がもつ情報は脂肪酸結合タンパク質によって核のDNAに伝えられる。

これらの研究を通して、新しいテクノロジー開発に利用できる情報を提供するとともに、教科書に載るような研究成果が得られれば嬉しく思います。先端科学を支える基礎研究は、大学ならではの研究課題と言えます。学生には、研究を通して生命現象の面白さと奥深さを知ってもらい、そして実験データを論理的に考えたり、議論できる力を身につけてもらいたいと思っています。


3年生の実験風景

設立3年目のFIRST。3年生になった1期生たちは週3日、一人ひとり内容が異なる「研究テーマ」に取り組んでおり、日々、未知の事柄を明らかにしたり、新規な物質をつくり出すことにチャレンジしています。

使用する実験機器も専門性の高いものとなっています。

sem
(走査型電子顕微鏡を測定中。顔も写るようにもう少し近くから撮りたかったのですが、本人が大いに照れて、実験に支障をきたしそうだったので遠くから撮りました。いろいろな点で成長しましたが、写真が苦手なところは入学後からまったく変わっていません。 )

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(高速液体クログラフィー(HPLC)で合成したペプチドを精製中。「このペプチドを何に使うのか?」はたいへん面白い内容ですので、近いうちに紹介したいと思っています。) 
 

それにしても・・・、  “ 親バカ (教員バカ?)” と言われるかもしれませんが、うちの学生たちは、3年前期にして、ひとりでペプチドの合成はできるし、合成したペプチドをHPLCで精製してUV-VisスペクトルやMSスペクトルも取れるし、ナノ粒子の合成もできるし、温度を制御しながら有機合成をやって、減圧蒸留や抽出やオープンカラムクロマトで精製して、NMRスペクトルも自分で取ってくる。おまけにPCRやゲル電気泳動や細胞培養もできる ....人によってこの中のどれかができる、というのではなくて、各自が全部できる。

ふと、感心することがあります。
(文系の方には何のことやらさっぱり、ですよね。すいません。)

それにしても、私自身が3年生になりたての頃といえば・・・、確か、ろ紙を焼いたり、試験管を洗ったりする程度のことしかできませんでしたよ ・・・・。隔世の感があります。 

オープンキャンパス『実験体験講座 化学編』

8月6日(土)、7日(日)に開催するオープンキャンパスのイベント内容を紹介するシリーズ、第2弾。ポートアイランドキャンパスでは『実験体験講座』を、生物学編と化学編の2テーマで実施します。 

生物学編: 細胞を見る! 自分の細胞を染色して核やミトコンドリアを見てみよう。
化学編 : 化学反応を見る! 化学発光を利用して玄米の鮮度を測定してみよう。 

今回は化学編の紹介です。

化学反応では多くの場合、反応の結果、熱が発生しますが、稀に光が発生するものもあります。よく知られている例は、蛍の光やケミカルライトですね。ケミカルライトは、名前はご存じないかもしれませんが、遊園地や夜店で売られている“折り曲げると光りだす棒”とか“夜釣り用の光るウキ”などに使われている、と言えばおわかりになるでしょう。

luminol

さて、このような光る化学反応(化学発光といいます)には、反応を促進してくれる「触媒」が必要です。このことを利用して、「触媒があれば光る」逆に言えば「光れば、触媒があるという証拠」「明るく光れば、触媒がたくさんあるという証拠」という原理で、「触媒」の有無や量を調べることができます。

では、「触媒」の量を調べて何かの役に立つのか? といいますと、これが大変役に立ちます。

例えば血痕鑑定。血液中のヘモグロビンが化学発光の触媒となりますので、検査液をスプレーして「光れば血痕」「光らなければ血液以外のただのシミ」と判別できるわけです。

オープンキャンパスで実験して頂くのは、玄米の鮮度鑑定。玄米の表皮にはペルオキシダーゼという酵素が含まれているのですが、これも化学発光の触媒となります。また、このペルオキシダーゼは、玄米が古くなるにつれて活性が落ちていきます。したがって、「明るく光れば新米」「あまり光らなければ古米」と判別できるわけです。 

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ともかく、この化学発光、見た目がとてもきれいなので、化学が苦手な高校生の方もきっと化学が好きになると思いますよ。受験生の方々、高校教員・予備校講師の方々、みなさんのご参加をお待ちしております。 

なお、実験体験講座は、原則、事前申し込み制となっております。定員に空きがあれば、当日参加も可能ですが、確実に受講していただくために、事前のお申し込みをおすすめいたします。

実験体験講座の申し込み方法については、近日中にFIRSTホームページでお知らせします。


教員の研究紹介(中野先生1)

前回はFIRSTに所属する15名の教員の中から、生命高分子科学研究室の長濱宏治先生を紹介しました。今日は、分子機能科学研究室の中野修一先生をご紹介します。

中野先生は、「生命現象を化学の視点から解明する。生命体がもつ基本原理を明らかにし、テクノロジー開発に役立てる」という研究目標を掲げ、DNAやタンパク質などのバイオ分子の動作原理を解明する研究を進めています。

 

中野

私の研究室では「生命システムで分子がはたらく仕組み」に注目した研究課題に取り組んでいます。最初に、私がなぜこの分野に興味をもっているのかをお話ししようと思います。

高校での生物の授業で食物連鎖と自然淘汰を知ったとき、私は大きな衝撃を受けました。食物連鎖によって地球上のあらゆる生物がお互いに関係し、そして自然淘汰によって生物は進化してきたという事実に対してです。この自然界のおきてを知ることで、それまでバラバラだった知識がつながったときの爽快感を忘れることができません。一方で、高校での化学の授業はあまり好きではありませんでした。物質の化学反応を暗記することに意義を見出せなかったのです。でも大学生になって、化学反応は熱力学のルールに基づいて起こることを知りました。多くの化学反応の理由を説明できる理論の存在を知ることで、心の中のモヤモヤが一気に晴れました。振り返ってみると、私は自然界にある仕組みに心動かされてきたようです。このことは私の今の研究のモチベーションにもなっています。

私の研究室ではDNA(遺伝子)に関する研究を行っています。DNAはとても調和の取れた、きれいな形をしています。2本の長い鎖が絡み合って螺旋(らせん)状になったDNA、これが親から子へと遺伝していく物質の正体です。私たちの身体の中にある、芸術作品ともいえるDNAに驚嘆せずにはいられません。この形がわかったのは、いまから60年ほど前のことです。つまり、この半世紀ちょっとという短い間に、DNAを中心とした遺伝の仕組みが解明されたのです。驚くべきスピードといえます。私が高校生だった頃は、バイオテクノロジーという言葉が世間に広まり始めた頃ですが、生物の授業でもDNAの形については詳しく習わなかったと思います(授業を聴いていなかっただけかも知れませんが・・・)。私の両親に至っては、DNAの話を聞いた経験さえないと思います(ですので、私が大学でどんな研究をしているのかについては、いまだ理解してもらえていません)。今やDNAという用語は広く知れ渡るようになりましたが、DNAの形が教科書で紹介されるようになったのはこの数十年のことです。つまり、DNA研究はとても新しい分野なのです。

中野図1

DNAのすごいところは、その形が遺伝の仕組みを物語っていることです。タンパク質では考えられないことです(たとえば、形から酵素のはたらきを推測することは不可能です)。DNAには相補性と呼ばれる性質があり、パズルのピースを合わせるように、DNAのピースどうしを合わせることができます(DNAのピース合わせは化学的な作用によって行われます)。この仕組みによってDNAの遺伝情報がコピーされ、子孫に受け継がれていきます。つまり、生命体は“化学の力”を利用して遺伝を成し遂げているといえます。フロンティアサイエンス学部で学ぶ生命化学は、こうした生命の仕組みを理解するのにも役立ちます。

中野先生が今、理科を学ぶおもしろさを知ったきっかけや、DNA研究の話など、わかりやすく解説してもらいました。中野先生が今行われている研究は、次回に詳しくお話しますね。(つづく)