月別アーカイブ: 2011年4月

3年生実験の紹介(2)

 ある実験室の前を通り掛かると、3つの反応を同時に進めている3年生を姿が
.....何を合成しているのか話を聞いてみると(もちろん指導担当の先生の許可はいただきました)、いろいろなアゾベンゼンを合成しているとのこと。私なりの勝手な解釈をもとにテーマにタイトルを付けるとこんな感じです。

 「アゾベンゼンの合成と応用 ~ 分子を掴む!放す! 光で制御する“10億分の1メートル”のピンセットをつくる ~」

 CIMG3977

 アゾベンゼンという物質は、高校生のみなさんにはアゾ色素の骨格としておなじみですが、面白いことに、光を当てるとシス体からトランス体へ、また、トランス体からシス体へと構造が変わる(異性化する)性質があります。

azobenzene

 このアゾベンゼンの両端に、分子やイオンを掴む“手”を付けておくと、シス-トランス異性化にあわせて“両手”が開いたり閉じたりして、小さなもの(分子やイオン)を掴んだり放したりすることができる10億分の1メートル(ナノメートル)のピンセットができるというわけです。

 さて、このような分子サイズのピンセットが何の役に立つかというと・・・

 まず薬物送達(ドラッグデリバリー)が挙げられるでしょう。この“ピンセット”で薬分子を捕まえておいて、運び、患部で放す、ということができれば、薬の効果を上げて、しかも(患部以外の場所で薬が作用しないので)副作用を低減させることができます。

 また、(高校生の方にはちょっと難しい話になりますが)生体内反応の制御も可能でしょう。からだの中で働いている酵素やDNAを“掴む”ことによって、それらの働き具合を制御することができれば、この“ピンセット”自体が薬として働く可能性もありそうですね。

 彼が実際にどのような応用を目指しているかまでは聞いていませんが、合成が成功してどんどんその先の実験が進むといいですね。

 翌日、共同測定室の前で彼を見かけたので「どう?合成できてた?」と聞くと、「今、IR(赤外線の吸収パターンから有機化合物の構造を調べる装置)をとってきたんですけど.. ...」とあまりうまくいっていない様子。「実験はいきなりはうまくいかないところが面白いんやん!工夫する楽しみがあるということやん!」という、私の学生時代の先輩の言葉を彼に贈りたいと思います。


今週の2年実験

 今週の2年実験の様子をご紹介します。2年実験(科目名:ナノバイオラボ1A)は水・木曜日の午後に行われています。なお、1・2年生の実験は、ナノ・バイオ・ナノバイオの3グループにわかれてそれぞれの実験を行い、ローテーションすることによって半期で全テーマを行うかたちになっています。今回紹介するのはナノ実験とナノバイオ実験です(次回はバイオ実験を紹介します)。

ナノ実験【アルドール反応によるカルコンの合成】
 アルドール反応は、炭素原子と炭素原子の結合をつくる反応です。有機化合物の骨格は炭素でできていますので、アルドール反応はまさにその骨格をつくる反応として、とても重要な反応です。生体内でも糖の合成に使われています。
 実験しているみなさん、アルドール反応における求核体生成や求核攻撃、それから脱水によるα,β-不飽和カルボニル化合物生成のメカニズムは去年の講義で習得済みのはずですね .....忘れている人は復習しておいて下さいね。
 なお、下の画像はろ過によって生成物のカルコンをろ紙上に取り出しているところです。
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ナノバイオ実験【自分で設計したペプチドの固相合成】
 この日は、合成したペプチドの収量を分光光度計を使って求める実験をしていました。ペプチドには色素分子を結合させていますので、その色素分子による光の吸収を分光光度計という装置を使って調べてやることで、合成されたペプチドの量(収量)がわかります。左下の画像は、光の吸収とペプチドの濃度の関係(Lambert-Beer則)について書かれたテキストを見ながら、ペプチドの収量を計算しているところです。
nanobio_peptide
 また、右上の画像は蛍光光度計を使ってペプチドに結合させている色素由来の蛍光(発光)を確認しているところです。私「色素は何を付けたの?」学生「ダンシルです。あと、トリプトファンもあります。」私「ダンシルとトリプトファンが近くにあると・・・?」学生「FRETが起こります。」 うむ、よろしい。すらすらと学生が答えたので、指導にあたっている臼井先生もニコリ。
 なお、このあと、ペプチドが分解されるとダンシルとトリプトファンが離ればなれになり、FRETという現象が観測されなくなる、ということを確認する実験を行うそうです。

オープンキャンパスでの学生のプレゼン(3)

 先週末423日(土)に実施された春期オープンキャンパスでの「在学生による学部紹介」。前回までは石川真実さんの話を紹介しましたが、今回は、もう一人のスピーカー、吉田将敏君の話の内容を一部抜粋して紹介したいと思います。なお、石川さんも吉田君も新2年生です。吉田君はFIRSTを志望した経緯や、受験生に向けてのアドバイスを話してくれました。

「・・・・・私のFIRSTの出会いは、岡本キャンパスでの夏期オープンキャンパスで、フロンティアサイエンス学部(FIRST)のパンフレットを頂いて、その時はじめて、FIRSTの存在を知りました。パンフレットには最先端のテクノロジーが学べるということが書いてあり、その内容にとても興味をひかれたことを覚えています。そして、秋のある土曜日に私はアポなしでフロンティアサイエンス学部を訪問してみました。私は田舎者ですので、三宮という都会、ポートアイランドという人工島、神戸空港から飛行機が見えることなど、訪問した日の記憶は、今も鮮明に残っています。また、キャンパスの独特の外観が、とても印象的でした。その日は土曜日でしたが、運良く、学生実験が行われていて、見学にきた私も先輩方に混じって実験に参加させてもらえました。実験の印象は強く残っており、今までに見たこともない実験器具を上手に操作している先輩方の姿や、日が暮れるまでずっと頑張っておられる姿はカッコ良くみえ、それに加えて、突然見学に来た私にフレンドリーに話しかけて下さったことなど、その日に体験したことすべてが、FIRSTの魅力として感じられました。このFIRSTは、探していた自分に合った学部と感じ、その日以降、目指すべき目標となりました。・・・

opencampus2

「・・・・・また、受験勉強をしているときに陥りやすい悩みを解決するためのポイントとして、私が皆さんに薦めるのは、『自分一人でがんばっていると思わないこと』です。受験勉強も後半に差し掛かると、自分が何のために頑張っているのか、なんでここまで頑張らなくてはいけないのか、と疑問を抱いてしまうようになります。そんなとき、自分の周りには必ず、自分を応援してくれる家族、友達、先生がいるはずです。自分が見えなくなったときに、一度周りの応援してくれる人のことを考えることで、また頑張ってみようと思えました。特に家族の存在には、何度も助けられました。周りの人にも喜んでもらえるように頑張ろうと思うことで、つらかった受験勉強に打ち込むことができました。受験期を通して、周りの人たちへの感謝を持つことができました。今でも、その時の思いは残っており、大学での勉強で行き詰ったときの活力となっています。

 吉田君はご実家のある三重県からわざわざ見学に来てくれたのですね。FIRST(ポートアイランドキャンパス)は常時見学可能になっています。なお、「アポなし」の場合、対応できる教職員がいなくて最悪の場合ご見学いただけないケースも考えられますので、見学ご希望の方は、できましたら事前にポートアイランドキャンパス事務室までお問い合わせください。

お問い合わせ先はこちご覧下さい



企画する力

 就職して社会に出ると、会社のプロジェクトチームの中でいろいろな企画を自ら提案する機会もあり、大学の授業で身につける知識や実験技術だけでなく、授業では直接習う機会の少ない「企画する力」が求められるようになります。

 FIRSTには「学生委員」というものがあります。委員になった学生は、任期の半年間、学年の代表としてレクリエーションやキャリア活動などをみんなで話し合いながら、企画、立案します。キャリア活動やレクリエーションなど、自分たちに必要なことをベースにして企画する力を養うチャンスがあるんです。


キャリア会議


 上の画像は、今週の月曜日に行われたキャリア委員会の様子です。


 キャリア委員会では、学部生や大学院生の要望をもとにして「企業の見学」「セミナーへの研究者の招へい」「就職活動の模擬面接」などの企画を行います。各学年から選出された委員は、学年の意見をとりまとめ、自分たちの希望するキャリア企画を提案します。自分たちの企画を立案、実施することもさることながら、人の意見をまとめ、意見調整の大変さを知るよい機会にもなります。
 これまでにも、就職の面接の実施、化学会社や製薬会社の若手研究者の招へい、企業の見学など、学生の希望によるキャリア企画が検討され、実施されてきました。

 今年は、委員会での話し合いを通じて、どのような企画が立案されるのでしょうか。とても楽しみです。


オープンキャンパスでの学生のプレゼン(2)

 前回に続いて、23日(土)に開催された春期オープンキャンパスでの「在学生による学部紹介」(一部抜粋)を紹介します。

「(前回から続く)・・・・・私が、入学して今までの中でとても苦労していることは学生実験です。フロンティアサイエンス学部では、1年から本格的な実験が始まります。入学前は1年から実験できるなんてラッキー!と、実験がとても楽しみでした。しかし実際に実験が始まると、高校のようにすんなりと予想していた結果がでることは少なく、授業時間の後まで実験が続いたこともありました。正直しんどいなーと思ったことも何回もあります。そういう苦労もあるので、実験が終われば、みんなと『 実験お疲れ様打ち上げ 』をすることにしています。疲れてしんどくてもこれをすることによって、『 あの時しんどかったなー 』とか、『 あいつが失敗して大変だった 』と、その時しんどかったことが笑い話に変わり、実験の疲れがどこかに飛んでいってしまいます。最初の頃は、こんな難しい実験をして役に立つのだろうか?と思ったこともありました。でも、私には運良く、実験の大切さを実感できる機会がありました。この学部には、ポートアイランド内にある企業さんと連携するアイランドシップ教育連携というシステムがあります。私は1年の夏休みに、フロンティアサイエンス学部と連携している企業にアルバイトに行く機会をもらいました。そこで、実際に企業が実験や研究をしているところなどを見せてもらって、『 私たちが実験したことがここでも行われているんだ 』と、学部の実験内容の質の高さに驚くとともに、苦労したことが無駄でなかったということがわかり、とてもうれしくなったのを覚えています。・・・・」



 さて、このプレゼンは高校生に向けた学生目線の学部紹介ですが、実はこのような学生たちの生の声は、私たち教職員にとっても、「この学部を将来にわたってより良いものにしていく」上での大変良い参考になります。学生たちが「良かった」と感じている点はより発展させ、「不安だ」と感じている点はすぐに改善する・・・少人数体制ならではスピード感をもって取り組んでいきたいと考えています。

 なお、話の中に出てきた「学生実験」の内容については こちら  をご覧下さい。