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タマゴが先か、ニワトリが先か?

物事にはセオリーというものがあり、その順番どおりに物事が執り行われることが多くあります。

これは教育の世界も同じで、セオリー通りにすると学んだことを定着しやすいと考えられています。しかし、あまりにそのセオリーに固執し、囚われてしまうと、むしろ教育効果が失われたりする場合もあったりします。

FIRSTで学ぶ研究分野では、「実験」と「講義」は表裏一体で、どちらもしっかりと学び、修得しなければなりません。仮にどちらか一方の修得が不十分であったり、欠けたりすると、優秀な研究者にはなることが難しくなっていきます。だからこそ、しっかりと学びたいところなのですが、ではどう学ぶのが効果的なのか? 

研究分野におけるセオリー通りの考え方では、①実験技術に関わる基礎知識をしっかりと講義で学び、②学んだ事を実験によって確認する、という方法がよく用いられています。

確かに実験をするときに何をしているのかわからないまま、やってしまうより、何をやっているか事前に講義で学んでおけば、実験に対する理解も飛躍的に上昇する気がしてとても合理的な「セオリー」だと思うのかも知れません。

ただ、実際に自分でやってみると理想と現実は違うものなんですよね。実験をしてみて初めて興味を持つ分野があったりもします。やった後に調べてわかることもたくさんあります。最初に講義で学んだからといっても、膨大に習う講義内容をきちんと理解できていないこともしばしばあります。

また、実際の研究はセオリー通りなのか?といえば、そうでもなかったりします。研究開発はそもそも未知の分野。最初に何を学べばいいのか???

設立準備委員会でもいろいろな議論が交わされました。ただ、この問いに関して、正解も不正解もないんです。最終的に我々が選んだのは実験をしてみて、おもしろければ深く学んでいくというスタイルです。

よかったか悪かったかは、わかるのはだいぶ先のことだと思いますが、学生実験に取り組む学生を見たり、彼らが学年を進行して話を聞くところでは興味・関心の喚起に繫がっているように思えます。

いずれにせよ、表裏一体となる「実験」と「講義」を関連づけながら学び、成長して育ってくれれば嬉しい限りです。


今週の1年実験

先週は祝日と学園祭(摂津祭)で、2年生の実験科目の授業日はありませんでした。

というわけで、先週につづいて1年生の実験を画像で紹介します。

【ナノバイオ実験】

ついに人工甘味料アスパルテームの合成が完了しました。
高速液体クロマトグラフィーという分析装置を使って、アスパルテームの純度と収量を調べます。

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試料を装置内にセットして・・・

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分析をスタートします。

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こちらは市販の炭酸飲料中のアスパルテーム。3.5分のところに出ている小さな山が、アスパルテームのピークです。このピークの大きさ(面積)から、アスパルテームの含有量を知ることができます。

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結果をパソコンを使って解析しているところです。 P社の○プシN○Xでは、350 mL中に約0.1 gのアスパルテームが含まれているという結果が得られました。さすが砂糖の200倍甘いという人工甘味料だけあって、含有量が少ないですね。

【バイオ実験】 

顕微鏡観察、今回の観察対象は・・・・

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海老です。 

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手際よく海老を解剖していきます。

 

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寿司屋のネタのように(?)、きれいな仕事がされています。
実験に使ったエビは、無駄にすることなく、あとでおいしく頂いたとのことです。


今週の1年実験

今週の1年生の実験の様子を画像で紹介します。

なお、フロンティアサイエンス学部の1-2年生は、それぞれ3つのグループにわかれて、ナノ、バイオ、ナノバイオという3つの実験テーマを順々にこなしていきます。実験テーマは前期と後期で異なります。

【ナノバイオ実験】
人工甘味料アスパルテームの合成を行っています。 
今日は、前回合成したジペプチドから脱保護を行うステップです。
脱保護というのは、保護基を除去すること。保護というのは、合成の際に「反応して欲しくないけどそのままだと反応してしまう」部位を、「反応しないように」保護基を取り付けて、一時的に「反応性の低い」状態に変えておくことです。

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脱保護のためのパラジウム-活性炭という試薬をはかりとっています。
(ろ紙などに付着したままにしていると燃え出すこともある、大変危険な試薬です。) 

【バイオ実験】
後期は生物学の基礎、顕微鏡観察をしています。

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何を観察しているのかな、と思い、スケッチをのぞいてみました。


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【ナノバイオ実験】
超微細回路作成に関連したハイテクな実験です。

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金ナノ粒子を、ガラス基板の予備修飾した箇所だけに吸着させて、微細なパターンを形成させます。そこが、「電気が通る」微細配線になります。


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ちょっとピンぼけで見にくいですが、うまくパターンがつくられていますね。

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こちらの班は・・・・・全体に・・べちゃっと・・。
いやいや、実験がうまくいかないときの方が、レポートの考察がうまく書けることもありますよ!

きちんと配線されているかどうか、マルチメーター(テスター)で調べます。 

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講義と社会を繋ぐ

「この講義で学んだことって社会に出て役に立つの?」学生であれば誰もが一度は疑問に思ったこともあるのではないでしょうか? 特に、専門性の高い大学の講義となれば、難しいだけで役に立たないのと思われがちかもしれません。授業中に「この講義は役に立つんですよ!」と大学の教員が声高に説明しても、やはり企業人の言葉でないため、企業の研究開発とはほど遠いイメージがあるのでしょうか。

そのような事もあり、講義の中で実務家(企業の方)をお呼びして、講義に関連したことをお話するがあります。今回は、11月8日(火)に行われた「医療テクノロジー」の講義のお話を少しだけさせていただきます。

医療テクノロジーの講義では、人工透析のチューブや人工臓器などに使われる医療材料を取り扱う講義で、体に入れる材料ということもあり、免疫などの生体防御のシステムなども学ぶ講義となっています。今回、講義をお願いしました方は、ダイソー株式会社新事業開発部の鈴木 利雄 次長でした。ダイソー株式会社が開発した「アクアβ」という機能性食品の研究、開発も経緯や、効能の評価、商品化に至る幅広いお話、さらには、医療材料への展開についてもお話していただきました。

アクアβは、黒酵母が産生するβ-グルカンのことで、免疫を活性化させるというフレーズがインターネットにも時々掲載されているので、ご存じの方もおられるかもしれません。実際に販売されているそうです。

一つの材料をピックアップし、それを研究者たちが商品へとつなげていった話、また、大学等との共同研究による機能評価など多岐にわたる話をしていただき、講義で学んだことが企業でどのように使われていくのかを学べたのではないかと思います。

聴講した学生の感想の一部抜粋して掲載させてもらいます。

「研究結果によっていろいろな効果があるアクアβだが、当初に開発しようと思ったのはどのような効果を得たかったからなのか? どのようなニーズに対応する形で研究が始まったのか知りたいと思った」

「アクアβの構造を見ている限りでは、とても5つも6つも効能があるような構造には見えないのに、ここまで多様な機能を見つけた研究者たちが凄いと思いました。」

「今日の講演を聞いて、健康食品に対する考えが変わりました。正直、健康食品に対しては「本当に効果があるのか?」と疑問視している部分もありました。しかし、実際にはいくつもの実験を行い、検証し、データ化されていて、目で見てその効果がわかりました。ダイソーの方もおっしゃっておられましたが、薬でなく食品であるため、この効果を一般の人に伝えることは難しいということを理解できたのと同時に、すごくもったいないのではないかとも思いました。開発した商品でも、分野によっては効果をアピールしていくところにも難しさがあるのだと感じました。」

学んだ知識があれば、企業での研究開発で活かせることも多くあるはずです。実際、企業で一つの研究プロジェクトが立ち上がり、研究者や営業、広報、知財の人など多くの方が関わりながら自社の製品として世の中に普及していく、我々はついつい研究の一部分に目がいきがちですが、実際に多くの知識や情報が活用されているわけですね。

学生だけでなく、我々教員もいい勉強をさせていただきました。