カテゴリー別アーカイブ: FIRST誕生の秘話

学生実験の位置づけ

今日は、開設準備委員会で話し合った「学生実験」の内容や運用に関するエピソードについて紹介します。

このFIRSTは、最先端研究を学び、次世代の最先端技術を創出する人材を育成することを前提につくられました。最先端を学び、将来、最先端分野で活躍できる人材を育成するために最も重要と考えたのは、学生実験のプログラムです。

研究者は、実験の計画を立て、それを評価できる実験法を考案し、実験を遂行する。それによって得られた結果を纏め、考察し、考察をもとに研究をさらに探究させていく、ということを繰り返していきます。そのため、研究者として活躍するには「実験計画能力」「実験遂行能力」「科学的考察力」などの能力が必要となります。また、これらの能力は講義で身に付くものではなく、実験を繰り返し行っていく中で実践的に身につけることとなります。そのため、これら研究能力を育成する学生実験プログラムはとても重要と考えました。しかし、限られた教育時間の中で、研究者に不可欠な能力すべてを身につけることはとても難しいのが現状です。逆に言えば、限られた時間だからこそ、本当に必要な実験を厳選して、学生が効果的に学べる学生実験を考案する必要があったわけです。

このような考えの下、つくったのが今のFIRSTの学生実験プログラムです。

FIRSTでは、幅広い知識や技術が融合する生命科学の分野で学生さんが将来活躍できるように化学、生物の分野を両方とも使いこなせる人材を育成することを目標としています。学生実験では、遺伝子組み換えや、最新の機器を使った機器分析、電子顕微鏡操作、有機合成、細胞培養など、生物系学部出身者と化学系学部出身者が学ぶ実験技術を両方ともに、1年生から実験プログラムを通じて実践的に学び、身につけていきます。

「1年生は講義でそのような知識を習得してないだろうに実験をさせても大丈夫なの?」と、よく高校の先生に質問されることもあります。そもそも、研究というのは、誰もしていないことを探究することで、誰かに習ったから研究することはありません。そう考えれば、授業でしたことをすることに意味がないこともわかっていただけるのではないかと思います。逆に、習っていない中で実施する学生実験こそ、研究者としての能力を身につけるのにふさわしいと言えるのではないでしょうか。

ただし、そうは言っても自分たちがしたことのない実験をさせられるわけなので、実験の予習なしでは実験がおわりませんし、得られた実験結果を解析、考察することもままなりません。1年生の最初の頃は苦労している学生さんもたくさんいますが、我々も陰ながらサポートしつつ、がんばってもらっています。それもあってか、2年、3年になるとたくましく育ってくれています。

FIRSTは少人数体制で教育が行われていること、また、1年生から本格的に実験を行うことを学びの特徴としています。これはすべて新しい最先端技術を創りだせる研究者を育てることを目的としているためです。我々が言うのもなんですが、1年生から全員が機器を触り、使いこなしながら、最先端の研究テーマに取り組むことができるのは、全国的に見ても稀だと思います。

学生実験

FIRSTを開設して3年経ちましたが、今の学生さんを見ていると、この実験プログラムは成功しているのではないか、と感じる我々です。


少人数クラスの絆

「学部の定員はどのくらいがいいだろう?」

新学部・フロンティアサイエンス学部の構想を練っていた若手教員(といってもアラフォーですが)で議論を交わした一つの結論が35名でした。議論を交わしたと書きましたが、実は議論らしい議論はなく、「35~40名なら、全員が互いを知っているという集団になる」というのが一致した見解でした。そのメリットはいろいろありますが、ひとつは絆、といえるでしょう。

先日、A期末試験打ち上げのレクリエーションが行われましたが、その企画、準備、運営のチームワークをみて、「この子たちは卒業後どこに行っても活躍できる」と強く感じました。

この絆が大きな財産になるのは、卒業の後です。まだ、FIRSTには卒業生がいませんので、ほぼ同じ規模の学科(ブログ管理人の出身学科)のエピソードを書きたいと思います。1学年40名の学科です。

昨年、学科設立50周年を記念して全体同窓会があったのですが、同級生はもちろん、上下の学年まで久しぶりに会うのが懐かしく、親しく話すことができるのは、少人数ならではのことだと思いました。(FIRSTはマイラボがあるから、上下の繋がりはさらに強いでしょう)。

いくつかの世代がスピーチをしましたが、そのうちの1人は、卒業後に起業した20代の女性。化粧品企業の研究開発の部署に勤めていたのですが、もっとカスタマー寄りの仕事がしたいと、一念発起、会社をやめて自ら起業したのだそうです。しかしぜんぜんうまくいかず、開店休業状態。そんなとき、同級生から久しぶりに会おうと声が掛かって集まったところ、「○○ちゃん、みんな応援しているよ」と封筒が。同級生が声を掛け合って資金集めをしてくれたそうなんです(その額○十万円!)。

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その資金を手にしたときに、みんなの気持ちを無駄にはできないという思いから、仕事に対する考え方や行動が、がらりと変わったというんですね。それまでの甘さが消えて、仕事がうまく行き始めたというんです。いやあ、私、それを聞いて感動しました。ますますその学科への愛着が湧きました。在学中はあまり感じたことなかったんですが(笑)。

FIRSTの学生たちには、卒業後、どんな絆が生まれるんだろう。FIRSTが、卒業後にさらに愛されるなるような学部になればいいなあ。


T-Learning(ティー・ラーニング)

E-Learningというのは電子教材などを使った学習のことですが、T-Learningというのは皆さん聞かれたことがないと思います。これは、フロンティアサイエンス学部の教員相互授業参観のことです。専任教員の講義科目でそれぞれ最低1回は、参観を実施することになっています。

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T-Learningという名前は「Teacher(教員)も学ぶ」というところから付けられました。学ぶのは「授業を参観する教員」か「授業を実施する教員」か? こたえは両方です。
 
「授業を参観する教員」は参観した授業の良いところを参考にすることができます。また、自分の専門と異なる授業では、授業内容自体が改めて勉強になることもあります。

「授業を実施する教員」は、参観した教員からのコメントを参考にすることができます。改善すべき点を指摘してもらうこともあれば、良かった点を指摘されて励みになることもあります。

大学教員は基本的には研究者。「教える」ということに関しては、教育されたわけでも免許を受けたわけでもありませんから、授業の仕方などについて、継続的な向上のための努力をすることは欠かせません。

それと、何より大事なことは、教員が互いにどのような授業をしているか、内容、授業の様子、学生の関心度・理解度なども含めて、参観によって知ることができるということです。学部教育を考えるときに、このような情報の共有がなければ、各教員が「自分の授業では・・」という観点のみで意見を交換しがちになり、なかなか建設的な議論にはなりません。

 高校までは文部科学省の指導要領というガイドブックがあり、どの授業でどんな内容を教えるか、ということはある程度決まっています。しかし、大学の授業科目の内容は、学部で独自に考える事項ですから、「誰がどんな授業をしているかわからない」というわけにはいきません。参観は、各授業の役割や学部教育全体における各授業の位置づけや役割を再確認し、必要があれば改善していくのに役立つというわけです。

この制度は、新学部の構想段階で「教員の経験」をもとに採り入れられました。実は、私たちは大学時代に良い授業を受けたという経験があまりありません。もちろん、中にはすばらしい授業もありましたよ。でも、多くは「先生が前で教科書を朗読しているだけ」とか「先生が黒板に向かって独り言のようにつぶやいているだけ」とか「先生が板書してそれを写すだけ」とか、、、、中には「私は体の具合が悪い。単位はあげるから授業には出んでよろしい。」と授業もありました。

愉快な思い出ではありますが、ずいぶん無駄な回り道をした、という思いがあります。大学に入ってすぐに、専門分野のおもしろさを感じられる授業に出会えていたら、、、、専門分野をしっかり学べる授業に出会えていたら、、、、 フロンティアサイエンス学部の学生たちには、そんな授業に出会わせてあげたい、というわけで、学部開設時から継続的にT-Learningを実施しています。

実際に参観を行ってみての感想は(ブログ編集者の個人的な感想ですが)、、、「大変参考になる」ということに尽きます。本当にどの授業にも参考になる点がたくさんあります。それから「授業の質が高い」。自分が大学生のときにこういう授業を受けたかった、と思います。

観られる方は、、、、これは、緊張しますよ! 参観日が決まっているわけではなく、いつ観に来られるかわからないので、毎回毎回、すごいプレッシャーです。


クォーター制の導入

今日は、以前に「試験前のマイラボ」の時に少しだけ触れていたFIRSTがクォーター制を導入した理由についてお話します。

皆さんの中には「クォーター制(4学期制)」という言葉自体を聞いたことがない方も多くおられるのではないのではないでしょうか? というのも、日本のほとんどの大学では、クォーター制ではなく、セメスター制(2学期制)を採用しているからだと思います。我々FIRSTの教職員も、大学時代はセメスター制で学びました。ただ、海外ではクォーター制を採用しているところも多くありますので、中には知っておられる方もおられると思います。教職員の中にも海外へ留学した経験をもつものもいます。その時の経験から、開設準備委員会のときにクォーター制が長所が取り上げられ、FIRSTで採用されるに至ったわけです。

まず、我々が思っていたセメスター制の問題点からお話しします。

セメスター制では週に1度しか講義がなく、また、たくさんの講義科目が前期や後期に同時に開講されているので、前の週に講義で話した講義内容を忘れてしまっている学生が多くいます。また、高校のように中間テストがない科目も多くあるため、テスト前に試験範囲を丸暗記してテストに臨む学生さんが大半となってしまいます。結果として、テストが終わるとテスト前に勉強したことをぜんぶ忘れてしまうんですよね。試験前に必死に覚えた英単語が試験後にはすっかり記憶の片隅からも消えてしまっているあの状態です。

一方、クォーター制では、前期や後期をそれぞれ2つに分けるので、クォーターの各期においてはセメスター制で開講されていた半分の科目が週に2回ずつ開講されることとなります。週に2回もありますし、科目数もセメスター制の半分となりますので、前の講義の内容を忘れてしまっている学生さんもだいぶ少なくなり、講義毎の理解度は大きく向上することが期待されます。また、場合によっては前の講義の内容の演習形式で定着させることもできるわけです。

また、理系の専門科目の中には、ある講義の内容を発展させたものを勉強させていく「積み上げ式」の講義科目も多くあります。セメスター制では4科目の積み上げが前期、後期、前期、後期と計2年もかかりますが、クォーター制では半分の1年の期間で修得することが可能となります。大学入学後に、目指す道を変えた学生さんに進路変更の余地を残すことができるわけで、非常によい制度と思い、導入に至りました。

だからといって、すべての科目をクォーター制にしたわけではありません。共にいいところもあれば悪いところもあります。FIRSTでも、それぞれの制度のいいところを活用できるように、このセメスター制とクォーター制を講義科目によって使い分けて利用しています。

例えば、時間をかけて継続的に学ばせたい語学のような科目やレポート作成である程度の時間をかけてじっくりと調べたり、考えたりする必要のある実験科目はセメスター制として開講し、短期間で集中して学ぶことが良いと考えられる専門科目はクォーター制として開講しています。

今年で3年目。実際に導入してみてどうだったのか? 

学生さんの講義内容に関する習熟度に関しては、セメスター制よりもクォーター制の方が格段に向上したように思えます。また、試験期間が4期に分散しているため、試験勉強を通じてしっかりと学びを深めることもできているようです。

教員にとって予想外だった点は、講義期間中に学会などで1週間ほど出張に行くと2回も補講をいれないといけないことです。クォーター科目がその期に2つ開講されていれば補講を4つ。こればっかりは想定外でした・・・。

ただ、学生さんが成長していく姿を見ると、そんなこと忘れてしまえますけどね。


マイラボ誕生のはなし

 1年次から学生一人ひとりに専用デスクが用意される、自由学習スペース「マイラボ」。FIRSTのユニークな特徴の一つで、毎日、退出時間の20時頃まで熱心な学生たちの姿が見られます。(下の画像が「マイラボ」です。)

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 施設見学に来られる行政や企業の方々にも印象的なようで、「自分の学生時代にこういうのがあれば・・・」「もう一度大学に入り直したい・・・」という声をよくお聞きします。

 また、「マイラボはどこかの外国の大学を参考にしてつくったのですか?」という質問もよくいただきます。ひょっとしたらどこかに同じような施設をもつ大学があるのかもしれませんが、答えは「いいえ。」です。マイラボは、当時の若手教員陣がFIRSTの構想を練る中で、共通の「大学生のときの体験」と「教員としての経験」から生まれたアイデアなんです。

”大学には自分の教室や席がなかったので、自分の居場所や勉強場所を見つけるのに苦労した。” (大学生にも、自分のデスクがある方がいいのではないか?)

“学生が4年生になると研究室に配属されるが、研究室で学生に指導した内容は、3年生までの講義と比べて何倍もよく吸収してくれる。”(1年生のときから、研究室に配属されているかのように学生のそばにいて指導できれば、優秀な人材が育ってくれるのではないか?)

 このような、教員たちが抱いていた理想を実現すべく、教員研究室のとなりにマイラボが生まれたのです。

 最後に、マイラボという名前の由来ですが、”学生が研究室にいるかのように・・・” というところから「ラボ(研究室)」と名付けられています。

 このマイラボで、いろいろな発想や、同級生の絆、先輩・後輩の信頼関係など、たくさんの大切なものが生まれると期待しています。