企業が大学生に求める能力とは?(4)


さて、企業が大学生に求める能力、ひとまず今回が最終回です。

前回書いた、研究で培うことのできる「能力のホールパッケージ」とはどのようなものでしょう?
研究のプロセスに沿って、箇条書きにしていきたいと思います。

・文献調査/情報分析能力
 研究とは未知のコトを明らかにしたり、世界初のモノを創造したりすること。したがって、まずは論文等の文献を調査して情報を分析し、「何が未知なのか」「何が既にあるのか」という事実を把握する必要があります。

・専門分野の基礎知識
 文献を調査したり、その内容を理解したりするためには、専門分野の基礎知識が欠かせません。

・問題発見/問題提起能力
 未知のコトや未創造のモノであっても、解明して面白くもなければ、つくっても何の役にも立たない、というようなものは研究の対象としてもしょうがありません(長期的にみて面白いか、役に立つか、の判断は本当に難しいんですけどね)。何に取り組むべきか、発想と見極めが求められます。

・問題解決能力/計画力
 取り組むべき課題を見出したら、次はどう取り組むか? です。天才的なひらめきがある人は素晴らしいのですが、ひらめきがない人も、たくさんの研究事例から「定跡」を身につけることで研究者として十分な問題解決能力/計画力を身につけることができます。

・実験技術
 言うまでもありませんが、実験技術がなければ実験することができません。実験を必要としない科学・科学技術もありますが、ナノやバイオは多くの場合、実験によって新事実を発見したり、新物質を創造したりします。

・コミュニケーション力
 研究というと、一人で没頭しているイメージがあるかもしれませんが(そういうタイプの研究者もいないことはありませんが)、学生の研究は、教員とはもちろんのこと、まわりの人たちとコミュニケーションを取りながら協力し合って進めていくことが多いです。また、会社では上司を納得させたり、部下を指導することもあり、コミュニケーション力は重要です。

・ 考察力
 実験結果という客観的事実を読み取って、それが物語っている事柄を論理的に考え、纏めていく能力です。さらに、考察の途中で生まれた疑問や仮説を検証する実験や調査の計画を立てる力につながっていきます。実験結果を「マーケット調査結果」や「ユーザー動向調査結果」などにおきかえて考えてみれば、広く必要とされる能力であることがわかると思います。 

・プレゼンの能力とスキル 
 研究成果を論文のかたちにまとめて発表したり、壇上やポスター前に立って口頭で成果を伝えたりする能力です。成果の「どこが新しいか」「どこが優れているか」などを、背景や比較対象をうまく示しながらアピールしていきます。また、企業では、研究を行う以前に、「こういう研究に取り組みたい」「こういう成果が期待できるからこれをやれば会社のためになる」と上司を説得しなければいけません。

いかがでしょうか。このような能力が求められるのは研究職や研究開発職だけではないことは、すぐにわかっていただけると思います。例えば、ナノやバイオの実験とは縁のない、総合職、営業職でも、上に挙げた能力は必要ですよね。

でも、このような能力を磨くためには、何か、本気で取り組む材料が必要なんですね。その「何か」がFIRSTでは、ナノやバイオだ、ということなんです。

前々回、FIRSTで学んでいる内容は、それを直接活かして仕事をする人にとっても、そうでない人にとっても役に立ちます、と書きました。話の結論が見えてきましたか?

結論A:ナノやバイオの研究者になろうと人にとってはFIRSTで学んだことは直接役に立ちます。

結論B:まったく異なる、例えば、文系的な職種に就こうと思っている人にとっても、FIRSTで学んだ内容を活かして研究に取り組むプロセスが、いろいろな力を身につけるのに役立ちます。

ということなんですね。もう一つ、AとBの中間を付け加えさせてもらうと、

結論C:ナノやバイオ以外の理系の道に進もうと思っている人にとっては、研究に取り組むプロセスで身につけたことは当然役に立ちます。さらに、ナノやバイオとは直接関係ないと今は思われていることを、ナノやバイオを関連づければ、新しいことが生まれます。脳科学と情報科学が結びついてニューラルネットワークが生まれました。酵素と電極が結びついてバイオセンサーが生まれました。大学で学んだことと違う分野に進んだら、それはまったく新しいものを生み出すチャンスだと思って下さい。

4回にわたって、企業が大学生に求める能力のほとんどは、研究を通じて身につけることができる、という話を書いてきました。

研究ができるようになれば、どんな仕事だってできるはず! でも、研究が難しくて手に負えないもののように感じるからといって、研究を楽しめないからといって、がっかりすることはありませんよ。研究がうまくできなかった人は、どんな仕事にも向いていない、というわけでは決してありません。仮に、最終的に、研究の能力のホールパッケージを身につけなくても、個々の要素をひとつでもふたつでも身につけていくだけで、大きな前進です。その能力を活かせる、やりがいのある仕事が世の中にはたくさんあるはずですよ!