実験・研究教育の充実

1年次から専門実験がスタート

一般的な大学のカリキュラムでは、1年次に教養科目があり、実験科目は2年次以降に履修します。FIRSTでは教養科目を2、3年次の配当科目としているため、1年次から専門実験をスタートさせることができ、その技術を4年間かけてしっかりと修得することができます。

FIRSTの実験は、従来の大学教育では断片的に取り扱われてきた定性分析、定量分析、顕微鏡などの基本機器の使い方や、滴定などの基本的な実験操作を、より専門的な実験プログラムの中に組み込むことによって、研究に直結する実践的なコンテンツとしています。この実験コンテンツを通して、1、2年次の間に、研究活動に必要な実験技術をしっかりと修得することができます。

1年前期から、週1日、午後を使って「大腸菌を用いた遺伝子組換え実験(バイオ)」「分光光度計を用いた緩衝溶液とDNAの性質調査(ナノバイオ)」「有機化合物の分離精製(ナノ)」などの本格的な実験が行われます。

  • 大腸菌を用いた
    遺伝子組換え実験
  • 分光光度計を用いた
    緩衝溶液とDNAの性質調査
  • 有機化合物の分離精製

1年後期には「顕微鏡観察を通じた系統進化の理解(バイオ)」「合成甘味料アスパルテームの合成と食品分析(ナノバイオ)」「ガラス表面の撥水処理(ナノ)」など、1年次からFIRSTの学びに直結する実学的な実験コンテンツが用意されています。

  • 顕微鏡観察を通じた
    系統進化の理解
  • 合成甘味料アスパルテームの
    合成と食品分析
  • ガラス表面の撥水処理

2年次になると、週1日だった実験が週2日となり、内容はさらに充実していきます。「大腸菌を利用する分子生物学実験(バイオ)」「ペプチドの固相合成とその同定(ナノバイオ)」「有機化合物の精密合成(ナノ)」「ヒト培養細胞を用いた細胞工学実験(バイオ)」「核酸分解酵素反応の測定と解析(ナノバイオ)」「金ナノ粒子の合成と機器分析を用いた物性・構造評価(ナノ)」など、実際の研究により近い実験を、電子顕微鏡や核磁気共鳴分光測定装置、電気泳動装置、クリーンベンチなど先端の機器・装置を使って実施します。

  • 大腸菌を利用する
    分子生物学実験
  • ペプチドの固相合成と
    その同定
  • 有機化合物の精密合成
  • ヒト培養細胞を用いた
    細胞工学実験
  • 核酸分解酵素反応の
    測定と解析
  • 金ナノ粒子の合成と機器分析を
    用いた物性・構造評価

1,2年次からの専門実験を発展させる
3年実験、卒業研究

3年次になると、専門性のある研究テーマを選択して半期ずつ、研究テーマに取り組む研究型の学生実験へと発展し、4年次に行う卒業論文研究に向けて、高度な専門的知識や技術、経験を修得していきます。

4年次になると、研究室へと配属され、卒業論文研究に取り組みます。FIRSTには多彩な研究分野の研究室があり、学生が取り組む卒業研究のテーマも興味深いテーマばかりです。また、それらのテーマは修士論文研究へと発展していっているものも多くあります。

卒業論文研究や修士論文研究のテーマをいくつか紹介します。

新規機能性核酸の取得と機能解析

(遺伝子薬学研究室)

私が所属する遺伝子薬学研究室では‘遺伝子’と‘薬’をテーマに研究を行っています。最近は遺伝子をターゲットとした核酸(DNAやRNA)医薬が注目されてきていますが、実用化するためには効果的な核酸医薬の設計が重要です。私たちの研究室では、核酸医薬の効果を予測するパラメーターを求めているほか、新しいタイプの核酸医薬の開発や遺伝子工学の発展につながる非天然型のリボザイムを取得して、細胞内でその機能を解析する研究を行っています。リボザイムとは、核酸であるのにも関わらず酵素のように触媒活性のあるRNAのことを指します。私は特に自然界に存在しない新しいリボザイムの取得を行い、その活性や二次構造決定といった機能・構造解析を行っています。電気泳動やリアルタイムPCR、大腸菌の遺伝子組み換えやシーケシングなど、教科書でしか見たことのない実験を駆使して研究するのは楽しいですよ。

嵜本 捺愛(3期生、兵庫県立伊川谷北高等学校出身)

凝集発光色素の合成と病気の診断への応用

(有機合成化学研究室)

ガンやアルツハイマーなどの病気になると細胞や組織の中に特定の化合物がたくさんできますが、それを早い段階で見つけられれば病気の早期発見ができます。研究室では、そうした化合物を見つけて集まり、光るセンサーを開発しています。このセンサーには、特定の化合物に集まる性質を持った部分と、集合すると光る性質を持った部分が必要です。集合すると光る性質を凝集誘起発光(AIE)とよびますが、私はこのAIE特性をもった色素の合成について研究しています。こうした考え方で応用を目指した研究はまだ少なく、そこにやりがいを感じています。自分の手で合成した化合物が病気の発見や治療につながるかもしれないという夢を持って研究しています。

松本 亜衣(3期生、兵庫県立明石南高等学校出身)

クルクミンの自己組織化による超分子ナノ抗がん剤の開発

(生命高分子科学研究室)

近年、副作用がなく抗がん活性を有する天然化合物として、ウコンに含まれるクルクミンが注目されています。しかし、クルクミンは体内での難水溶性および加水分解など抗がん活性が失われるため、臨床応用に至っていません。我々は、クルクミンに親水性高分子を結合させることで両親媒性クルクミンを合成し、クルクミンの疎水性相互作用やπ-πスタッキングなどを利用して水中で自己組織化させ、超分子ナノ組織体を形成させることで、水溶性や加水分解の問題を解決することに成功しました。また、クルクミンナノ組織体がフリーのクルクミンと同様以上の抗がん活性を示すことを明らかにしています。今後は、クルクミンナノ組織体の抗がん活性を個体レベルで検証し、ナノ抗がん剤として実用することを目標に研究を進めていきます。

熊野 尊之(1期生、私立上宮高等学校出身)

金属ナノ粒子・多孔性有機金属錯体複合ナノ材料の作製

(固体光化学研究室)

金属ナノ粒子は光を集めるアンテナのような機能があり、金属ナノ粒子の近くに存在する物質が光を感じやすくなるため、金属ナノ粒子は光を利用したセンサーへの応用が期待されています。しかし、特定の物質のみを検出することができないため、我々は多孔性有機金属錯体(Metal-Organic Frameworks: MOF)との複合化に注目しています。MOFは、ジャングルジムのような三次元格子構造を金属イオンと有機分子で構築したもので、その内部の孔がナノサイズになっており、いろいろな物質を取り込むことができます。私は、金属ナノ粒子の周りをMOFで覆うことで両材料の性質を併せ持った材料の作製に取り組んでおり、さらにその材料のセンシングシステムや触媒への応用を目指しています。

岡 未知瑠(3期生、兵庫県立北摂三田高等学校出身)

人工ペプチドを用いたアルツハイマー型認知症の早期診断技術の開発

(生物無機化学研究室)

加齢とともに発症するリスクが高まるとされるアルツハイマー型認知症。その発症原因の1つとして、もともと我々の体内に存在するアミロイドβと呼ばれるペプチドが候補に挙げられています。アミロイドβは脳脊髄液や血液成分である血漿中にも存在し、アルツハイマー型認知症の症状が顕著になる数十年前から、徐々にその濃度が変化していくことが報告されています。私たちは、血漿中のアミロイドβをバイオマーカーとして、本研究室で開発したアミロイドβの凝集を促進する人工ペプチドを用いて、低侵襲、簡便、安価でありながらも高感度なアミロイドβ検出法を開発することで、早期にアルツハイマー型認知症のリスクを評価できるシステムの開発を目指しています。

國光 祐希(3期生、姫路市立姫路高等学校出身)

人工抗体高分子を用いる環境負荷物質センサーの開発

(機能性高分子研究室)

私たちの生活は、医薬品、化粧品、化学工業製品などのさまざまな物質よって支えられており、日々、新しい物質が生み出され、使用されています。そのような新しい物質の開発に伴って、環境中に存在する物質の種類もまた日々増加しています。それらの物質が、どのくらい環境中に留まるのか、また、生体への影響はどのようなものか、といったことをしっかりとモニタリングするためには、簡便かつ迅速な測定技術が重要です。私たちの研究室では、環境ホルモンや薬物などの特定の物質を「認識」し、「捕捉」し、その結果、「色」や「形」が変わる高分子材料の設計・合成を行っています。河川水や農作物の抽出液に、この高分子材料のスティックをつけると、「色」や「形」の変化から、その汚染物質の有無や濃度がわかる、そんな、新しい分析技術の開発を目指しています。

坂本 玲(3期生、愛媛県立松山南高等学校出身)

がん遺伝子と結合する化合物を用いてがん細胞を特異的に検出する

(分子設計化学研究室)

がん細胞では、細胞をがん化させる遺伝子が発現しています。通常、遺伝子は二重らせん構造を形成しますが、がん遺伝子は四重らせんという特殊な構造も形成できます。さらに四重らせん構造は、がん遺伝子だけではなく、細胞寿命を制御するテロメア部位でも形成されます。そのため、四重らせん構造を検出することは細胞のがん化やアンチエイジングの研究に不可欠です。分子設計化学研究室では、四重らせん構造と結合する化合物を開発しています。私の研究では、これらの化合物を用いて、がん遺伝子の発現とその四重らせん構造の形成を細胞内で検出する方法を開発しており、特許出願や論文発表も行っています。将来的には、がんの超早期診断や治療薬の開発に繋がると期待されます。

前田 龍一(1期生、兵庫県立三木高等学校出身)

人工ペプチドを用いたバイオミネラリゼーションの精密制御

(バイオ計測化学研究室)

当研究室では、タンパク質の小型版であるペプチドを用い、細胞内の機能調節、アルツハイマー病などの発症機構の解明、ナノ材料創製など幅広い研究を行っています。私の研究テーマは歯や骨の形成といったバイオミネラリゼーションと呼ばれる、生物が無機化合物(鉱物)を作り出す現象の人工的な制御法の確立です。この現象はタンパク質(ペプチド)が担っており、そのペプチド配列を用いて、無機物のナノレベルでの形、大きさ、位置の制御を試みています。本制御が可能になると、骨や歯の治療、ナノ電子部品作製などの応用が期待できます。本研究は3回生から行っており、企業と共同で研究することもあるので非常にやりがいを感じています。学会発表はもちろん、論文発表も目指して日々研究に励んでいます。

尾崎 誠(3期生、大阪府立河南高等学校出身)

GcMAFによるマクロファージ活性化メカニズムについての研究

(分子細胞発生学研究室)

私たちの身体にウイルスや細菌等の異物が侵入してきた際、さまざまな免疫細胞が働き、私たちの身体を守っています。その中でもマクロファージは、侵入した異物を貪食し、生体防御機構の最前線で働く重要な細胞です。
そのマクロファージを活性化し、貪食能を上昇させるタンパク質としてGcMAFがあります。GcMAFには、抗腫瘍、抗HIV効果も報告されており、免疫療法の一つとして注目されています。しかしGcMAFがどのようにマクロファージを活性化し、ガンに効くのかは分かっていません。私の研究では、そのメカニズムを分子レベルで明らかにし、より効果的なガン免疫療法の開発に結びつけることを目指しています。

石川 真実(2期生、兵庫県立芦屋高等学校出身)

バイオエタノールの実用化に向けたセルロース分解酵素活性化法の開発

(生物有機化学研究室)

石油や石炭などの化石燃料の枯渇に伴って、その代替エネルギー、特にブドウ糖を発酵させてつくるバイオエタノールに注目が集まっています。私たちの研究室では、生物が環境変化に適応するために使っている代謝物(老廃物)の不思議な機能について研究を行ってきました。その中で、これらの代謝物が細胞の化学反応を補助する酵素の活性を大きく上昇させることを明らかとしました。私の研究では、この酵素活性化能力を利用してセルラーゼ(セルロース分解酵素)と呼ばれるバイオエタノール製造の要となる酵素の活性を上昇させ、バイオエタノールの製造工程の効率化を目指す研究を行っています。生物が起こす興味深い現象を利用して、私たちにとって実用的なものを開発するのは、とてもやりがいを感じる有意義な研究だと思って頑張っています。

吉岡 直哉(3期生、兵庫県立加古川西高等学校出身)

核酸がもつ酵素活性の制御法の開発

(バイオ分子機能研究室)

核酸は遺伝情報の伝達に重要な役割を果たしていますが、なかには酵素としてはたらくものがあります。酵素活性をもつ核酸は、細胞での遺伝子発現のオン・オフの切り換えに重要なはたらきをしており、その優れた機能をバイオセンサーに利用しようという試みも行われています。私の卒業研究では、核酸がもつ酵素活性を制御する技術を開発するために、核酸に結合するイオン性物質の特性に着目しています。この物質を溶解させた水溶液を用いると酵素活性が大きく向上することが分かりつつあり、この技術は、核酸を使ったバイオセンサーの感度向上や機能性核酸の創製、新しい遺伝子診断技術の創製につながると期待されます。

山下 博文(3期生、兵庫県立高砂南高等学校出身)

金ナノ粒子をユニットとした超格子構造の構築

(ナノ材料化学研究室)

金をナノサイズまで小さくした粒子は赤色に見えるため、ステンドグラスを赤く着色する目的で古くから用いられてきました。このように金ナノ粒子は普段目にする金塊とは異なる特有の性質を示すことから、センサーや触媒などへの応用が期待されています。この金ナノ粒子の性質はナノ粒子の大きさや形などに加えて、ナノ粒子構造体の粒子配列に依存することが知られています。私の研究では、金ナノ粒子が規則正しく配列した構造体である超格子構造体の粒子配列を任意で制御することが可能な方法の開発に取り組んでおり、その手法の確立と超格子構造体の応用を目指した研究を行っています。

川上 貴也(2期生、兵庫県立神戸鈴蘭台高等学校出身)

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