タグ別アーカイブ: 学生実験

1年次実験<基板表面改質>

火曜日は1年生の学生実験(実験実習)。

1年生の学生実験は、バイオ、ナノ、ナノバイオ、ケミカルの4分野にわかれて行われていて、前期はそれぞれ、「細胞培養」「基板表面改質」「緩衝液」「クロマトグラフィー」がテーマになっています。

学生は半期をかけて、この4つのテーマすべてに、順番に取り組みます。

生物学から化学まで幅広い分野の知識と実験技術を身につけるわけですね。

今回は「基板表面改質」の実験内容について紹介します。

みなさんは、紙のように折りたたんだり、くるくると丸めることができる液晶ディスプレイを見たことがありますか?

そのようなフレキシブル(柔軟な)ディスプレイをつくるには、やらわかいポリマーフィルムの表面を改質して、電気が通るようにしてあげる必要があります。

そんな表面改質に取り組むのがこの実験テーマです。

実験の様子(動画)は、こちらをクリックしてご覧ください【 動画 】

具体的には、化学反応によってフィルムの表面を少しだけ分解させて、金属イオンを捕まえる「手」を露出させます。

その「手」に吸着させた金属イオンを還元させる(金属イオン→金属そのものに変化させる)ことで、やわらかいポリマーフィルム表面に電気が通る性質(導電性)をもたせることができます。

表面改質1

(金属イオンを含む溶液につけた後、還元することで、フィルム表面を金属でコーティングすることができる。もとのファイルは右上のような薄茶色をしているが、銀(右中央)や銅(右下)で覆われたフィルムは光沢が生じている。)

この実験では最初、表面全体を導電化していますが、後半は、つまようじを使って試薬を付けることで表面の一部分だけを導電化しています。

ディスプレイなどを作る際には、フィルム表面に非常に細かくナノメートルの精度で回路(配線パターン)を描く必要があるわけですが、つまようじを使って試薬で絵を描くことで、配線パターンをつくるイメージを体験していただいているわけですね。

表面改質2

(つまようじで部分的に試薬を付けることで、狙ったパターンの導電化を行った例。銀色の光沢がある部分のみが銀で被覆、つまり、導電化されている。)

なお、実際のナノテクノロジーでは、試薬を付けたスタンプを押し付けるなどの方法で、パターン作製が行われています。

フロンティアサイエンス学部の学生実験は、インスタグラム(@konan_first)でも紹介しています。


水曜と木曜は2年実験の日(3)

(「水曜と木曜は2年実験の日(2)」から続く)

 

2年生の学生実験の紹介、最後は「ペプチドの合成」です。 

受験生のみなさんは「ペプチド」や「タンパク質」のことはご存知かと思いますが、念のため、簡単に説明しますと・・・。 

一般的にはアミノ酸が2〜50個程度つながってできた鎖のような物質をペプチドと呼び、さらに多くのアミノ酸がつながった、より長いものをタンパク質と呼びます。ただ、タンパク質の「アミノ酸がつながってできているという」という構造上の特徴を指して、タンパク質はペプチドである、といっても間違いではありません。

 

solidphasesynthesis_Fotor

(この授業では、樹脂ビーズの上でアミノ酸をつなげていく「固相合成」という実験技術を習得します。上の図で、アミノ酸構造中の◯の色の違いは、アミノ酸の種類の違いを表しています。)

 

生体内のペプチドでよく知られているものにはインスリンがありますね。最近では、アルツハイマー病に関連してアミロイドβ(ベータ)というペプチドも注目を集めています。

13207592 - human insulin. stylized chemical structure.

 

(血糖値を下げる働きをするホルモン「インスリン」もペプチド。2本のペプチド鎖が途中2箇所でつながった構造をしています。)

 

こちらが実験の様子です。

peptidesynth_1

peptidesynth_3peptidesynth_5

peptidesynth_2peptidesynth_4

(上から)実験操作の説明、樹脂ビーズの秤量、樹脂ビーズの洗浄、反応(試薬の添加や撹拌)、反応の確認

 

さて、 ペプチドのような生体内で働く分子を、生体外で化学的につくる、ということには、どのような意義があるのでしょうか。大きく分けて2つあります。

 

1.からだの中の分子のことを知る

 実際に人間の手でつくって調べてみることによって、からだの中の分子の性質や働きをより深く理解することができるようになります。例えば、酵素を構成している「或るアミノ酸」を「別の種類のアミノ酸」に変えてみることによって、酵素におけるそのアミノ酸の働きを確かめることができます。もし、別の種類のアミノ酸に変えて酵素が働かなくなったなら、「元のアミノ酸」には酵素にとって欠かせない働きをしていた、ということがわかるわけですね。

2.からだの中の分子を超える分子を作る

 実際に人間の手でつくったり調べてみたりする経験を重ねることによって、からだの中の分子を超える性質や働きをもつ、新しい分子をつくれるようになります。例えば、副作用のない薬や、空気から役に立つ物質を生産できる触媒などを設計するヒントが得られたりします。

 

これが生物学と化学を融合的に学んだり研究したりする、生命化学のおもしろさですね。

うーん、今日の後半は受験生向きというよりも、うちの学生に向けた講義のようになってしまいましたね。