参加いただく教員には、申込みの段階で化学、もしくは生物のいずれかのテーマを選択いただきます。各テーマの内容および背景、進め方については下記に示しておきますので、参考としてください。
@生物系テーマ
生物系テーマでは、「遺伝子解析」について研究を進めていただきます。背景と方向性は以下に示しておきます。
ヒトゲノムが解読され、ゲノムから引き出される遺伝情報によって発生や分化、進化、個人の体質や疾病などとの因果関係が解明されつつあります。遺伝子解析技術は、メディアでも頻繁に取り上げられ、例えば、新型インフルエンザウィルスの検出、食品偽装の解明、犯罪捜査や個人鑑定、予防医学など様々な分野に使われるように至っています。
遺伝情報の解析には、高等学校の生物の教科書で取り扱う「ポリメラーゼ連鎖反応」が広く利用され、高等学校で実験できるキットも販売されています。しかし、課題研究として遺伝子解析を取り扱うとなると、市販のキットで対応できない場合にどのような試薬、手法をとるべきか、具体的な調査方法を設定することができないことも教育現場では多くあると思います。
今回のプログラムでは、ヒトの体質に関する遺伝情報の増幅、解析を通じて、参加者に遺伝子解析における遺伝子の抽出(組織の選択、抽出法)、前処理(ゲノムの精製法)、増幅(プライマーの設計、使用する酵素等)、解析(電気泳動法、制限酵素の使用等)などの違いが、どのように結果に影響するかを学んでいただきます。また、本プログラムでは、多様な用途を持つ遺伝子解析の研究技術を学んでいただくと共に、遺伝子解析の研究を例に、他の生物系の課題研究における実験計画の立て方や、実験・解析方法に広く応用、展開できるノウハウや考え方を学んでいただくことを期待しています。
A化学系テーマ
化学系テーマでは、「色素の機能」について研究を進めていただきます。背景と方向性は以下に示しておきます。
天然の繊維を草木や貝類から得た天然色素で染色し、身にまとったのは非常に古い時代で、エジプトのミイラの着衣がインジゴで染められていたことからも窺い知ることができます。色素(天然色素)は非常に高価であり、色は地位の象徴でもありました。例えば、地中海産の貝から採れる紫色の色素は"皇帝紫"、"古代紫"とも呼ばれ、それで染めた衣服をまとえるのは文字通り、皇帝や元老院の議員に限られていました。その歴史を大きく変えたのは、1856年のことです。イギリスのWilliam Perkin(ウィリアム・パーキン)という化学者が偶然、モーベインと呼ばれる紫色の色素を合成することができたことに端を発します。1858年には、アゾ色素が、1868年にはアリザリンが発見され、天然からしか作れないと思われていた色素が、現在に至るまで数多く発見されてきました。そして、今では布を染める"染料"に限らず、色素は、"指示薬"、"センサー"、"太陽光発電"、"記憶媒体(CD-R)"、"医療材料"に至る幅広い用途で使われるに至っています。
今回の実験では、機能を探索する合成色素として、高等学校の化学の教科書でも取り扱う「アゾ色素」を取り上げます。参加者には多種多様なアゾ色素を合成いただき、どのような化学構造を持つアゾ色素がどのような機能を持つのかグループ毎に探索していただきます。指示薬、金属イオンセンサー、染色材料など、探索する機能はグループ毎に設定いただき、色素の化学構造と性質(機能)の相関について研究を進めていきます。
化学の分野では、創薬に代表されるように分子を設計し、合成する技術が重要となります。その鍵を握るのは分子設計法であり、そのためには物質の機能と化学構造との相関関係を理解することが不可欠となります。本プログラムを通じて、"ものづくり"に関して分子を設計する発想と機能解析の手法について広く学んでいただくことを期待しています。