カテゴリー別アーカイブ: 授業

エンベロープ 新しい授業のかたち

受験生の皆さん、自分が大学で授業を受けている姿って、想像できますか?

 ドラマでよく見るような、ひな壇タイプの講義室で、一生懸命に板書をしている姿?
 ハーバード白熱教室のように、大勢の中で教授と議論を戦わしている姿?

 少人数制のフロンティアサイエンス学部では、一つの授業科目の受講者数は10数人から多くても50人。ポートアイランドキャンパスには240人が入れる大きなひな壇タイプのホールがありますが、授業に使われることはほとんどありません。

 授業は、教員目線で説明すると、目の前に座っている学生たちに語りかけるような感じで進められています。世間には、まるで黒板と対話しているような(学生にずっと背を向けて授業をしている)教員もいるようですが、フロンティアサイエンス学部にはまず、そういう先生はいませんね。

 なぜそう断言できるかというと、教員が互いの授業を参観しているからです。これは、他の授業の内容や方法を参考にして、各教員が教育の質を高めていこうという取り組みの一つです。いつでも誰でも、どの授業でも、参観してよいことになっています。

 このような教育の質向上を目指した取り組みを、ファカルティー・ディヴェロップメント(Facuflty Development, 略してFD)といいます。甲南大学では、「教育力の甲南」というブランドに恥じないようさまざまなFD活動が進められています。

 その中のひとつが、毎年12月に開かれるFDワークショップという勉強会。教職員が集まって、より良い授業を実現するためのアイデアを出し合ったり、授業の組み立て方や進め方に関する講義を受けたりします。例年、講師を務めて下さるのはマネジメント創造学部(CUBE)の Brent Jones先生。外国で進められている新しい授業のスタイルなどを紹介して下さるので、毎年、私は良い刺激を受けています。

 FDワークショップでJones先生に紹介していただいた授業スタイルに、エンベロープ(=封筒)というのがあります。先日、私の担当科目「プレゼンテーション演習」で、このエンベロープがぴったりだなと思う場面がありましたので、次のように実践しました。

スライド1

1.受講生が学園祭期間中の過ごし方や出来事について、1人ずつ、スライド1枚を使って、1分間のプレゼンをする。全員が、自分以外の全受講生のプレゼンを聞くことになる。

2.互いにプレゼンをしてみて気づいた「プレゼンで大切なこと」をレポート用紙にまとめる。誰が作成したか、他の人にはわからないようにするため、記名は偽名にする。

3.受講生は、いくつかの班に分かれる。1班は4人。班ごとに1通の空の封筒を受け取り、その中にレポート用紙を入れる。(1つの封筒の中に4枚のレポート用紙が入っていることになる。)

4.封筒を隣の班に渡す。

5.受け取った封筒の中のレポートを見て、班の中で議論をしながら、良いと思うレポートから順に4、3、2、1と点数を付け、点数を裏に書き込む。(必ず4>3>2>1と優劣をつける。そういうルールにしないとだいたいみんな3点か2点になってしまいますからね。)

6.4と5の手順を4回繰り返す。

7.レポート用紙の裏に書き込まれた点数を足し合わせる。

8.トップ5のレポートの内容と作成者を発表する。

 「よく伝わるプレゼンとはどういうものか?」について、もちろん授業でいろいろな例を見せたり、繰り返し説明をしたりはします。でも、このエンベロープは、先生から教えられるという受け身のスタイルではなく、学生自身が「自分なりに考え」、さらに「他人の考えた結果を評価しようとすることでさらに深く考える」ので、より確かにプレゼンのコツが身に付くように感じました。何人かの学生に聞くと、彼ら自身も楽しく、また、ためになったと感じたようです。

 もし、このブログの読者に教育関係の方、いらっしゃいましたら、おすすめですよ、エンベロープ。


学生実験の紹介

入学したらすぐに実験の授業が始まるフロンティアサイエンス学部のカリキュラム。1年生は週1日ですが、2年生になると週2日となり、内容も自分で考えなくてはならないことがぐんと増えてきます。そんな学生実験(ナノバイオラボ)の様子を画像で紹介します。

 なお、1-2年生の実験は、ナノ、バイオ、ナノバイオという3つのグループに分かれて、各実験を順々にこなしていきます。

【 上の画像はナノ実験室です。1年前期は抽出やクロマトグラフィーなどの化学の基礎的な実験を行います。】

【ナノ実験室での2年生。有機合成に取り組んでいます。合成した化合物は、核磁気共鳴分光装置(NMR)という高価な(!)装置を、自分で操作して(← ふつう2年生は触らせてもらえません)、構造を確かめます。】


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 【実験は実験室だけで行うのではありません。下の画像は、講義室でパソコンを使ったデータ解析に取り組んでいる様子です。酸塩基滴定(画像:上)のデータを解析して、物質の酸としての強さの指標となるpKaの値を見積もっています。】

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 【バイオ実験室の2年生。遺伝子組み換えの実験です。】

 

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 【バイオ実験に取り組む2年生。学生どうしで、実験の手順を確認しているようです。】
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【ナノバイオ実験に取り組む2年生。ペプチドという物質の合成を行っています。手順を抜かしたり重複させたりすることのないよう、チェックリストに沿って実験を進めていきます。】


大学院の授業(ナノバイオ研究演習1)

FIRSTの大学院(フロンティアサイエンス研究科)にも特徴的な演習科目が導入されています。修士課程に2つ、博士後期課程に3つの計5つあるのですが、そのうちの修士課程で履修する「ナノバイオ研究演習1」について、今日はご紹介したいと思います。

 皆さんの中には、大学院では授業らしい授業なんてほとんどなかったよ、という大学院出身者も多くいらっしゃるのではないでしょうか? 私たち教員の多くもそうでした。大学院で学んだことといえば、もっぱら自分の学位論文に関係することだけで、それも独学だったという方も多いと思います。

 そして、研究を進めるうちに自分が取り組んでいる研究におもしろさや、やりがいを感じ、この研究を生涯続けたい! と思っていた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 大学院修士課程では、自分で自立して研究を進める能力を育成することが、どの大学でも共通に掲げられている目標であり、そういう熱い思いをもって研究に取り組んでいただくことに何の問題もありません。

 しかし一方で、大学で行っている研究と全く同じ研究を、企業に入社後も継続してできる人はほぼいないのも事実です。企業には経営方針の中で設定された研究テーマ、プロジェクトがあり、入社後に研究部門に配属された場合、その研究に従事する必要があります。

 そのため、入社後、上司から「この研究テーマをして欲しいから、調べて実験計画を練ってくれ!」と依頼され、研究計画を練る必要も生じます。ところが、最近の新入社員にはそう指示すると「何をどう調べたらいいんですか?」と聞き返す人が多いそうです。「えっ、大学では習っていないの?」と聞くと、「よくわかりません」と答えるそうです。しかし、大学で取り組んでいた研究については関連研究も含めてきちんと答えられるとのこと。

 学部4年、修士課程と研究をしてきたはずなのに、なぜそのような基本的なことができないのか?

 おそらくは、教授から渡される研究資料を読むだけで、異分野の新しい技術に興味を持ったり、それを調べたりした経験がなかったためではないかと我々は考えました。それで、講義を通じてそのような素養を身につけてもらいたいと誕生したのが大学院修士1年が受講する「ナノバイオ研究演習1」です。

「ナノバイオ研究演習1」では、研究シーズや先行研究に関する調査能力を身につけることを目的としており、以下の3点が学生さんには課されています。
(1)自分の修士論文研究と異なる興味深い研究シーズを探してくること。
(2)そのシーズについて報告されている先行技術を調査し、総説の形で纏めること。
(3)総説の内容を、教員や学生に対して15分間でプレゼン(口頭発表)すること。

 夏前から準備をすすめ、 昨日と一昨日の2日間、最後の成果発表である(3)のプレゼンが行われました。

ナノバイオ研究演習3
ナノバイオ研究演習1

 大勢の聴衆を前にしたプレゼン・質疑応答は良い経験になったことと思います。また、教員からだけでなく3年生からも質問が出るなど、質疑応答も活発に行われました。

ナノバイオ研究演習2

 これまでに読んだことがない分野の論文を探してきて、読んで、纏めるわけですから、受講した多くの学生は大変だったと声を揃えて言います。しかし一方で、日頃から論文を探したり、読むようになった。自分の研究テーマ以外にも興味を持つようになったという学生も少なからずいます。

 そのような声を聞くと、講義をつくった甲斐もあったのだろうと思う今日この頃です。


2012年の授業も明日で終わり

明日21日で授業は一旦終了。冬休みをはさんで、あと1-2週間で今年度の授業も終了です。

 この時期、フロンティアサイエンス学部の3年生は忙しい! 学部卒で就職を考えいる学生は普段の授業に加えて、企業説明会や就活セミナーがありますし、なんと言ってもナノバイオラボ2(3年生の学生実験)のポスター発表がひたひたと近づいてきています・・・。

 フロンティア サイエンス学部では、3年生は一人ひとりが違うテーマに取り組みます。それも、テキストに載っているような既存の実験ではなく、未知のテーマにチャレンジするのです。いわばプチ卒研みたいなものですね。ただし、プチとはいってもそれは「週3日、半年間」という時間的なこと。内容的には卒研にひけをとらないテーマも多く、昨年度はのべ27人の3年生が学会/シンポジウムの発表者に名前を連ねました。

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【3年生になると一人ひとりが異なるテーマに取り組む】 


 学会発表は全員というわけには参りませんが、前期・後期の最終週には、3年生全員が半年間の成果をポスターにまとめて学内で発表会を行います。教員として嬉しいのは、毎回、みんなが他の同級生の発表をしっかり聴いて質問をすること。自分の実験と発表準備に一生懸命取り組んだからこそ、他の人の発表に対しても、関心と敬意をもって、聞こうという気持ちになるのですよね。

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 【前期のナノバイオラボ2のポスター発表の様子】

今日の1年実験

今週のナノバイオラボベーシック(1年生の実験)の様子を画像で紹介します。

フロンティアサイエンス学部の1-2年生は、それぞれ3つのグループにわかれて、ナノ、バイオ、ナノバイオという3つの実験テーマを順々にこなしていきます。実験テーマは前期と後期で異なります。では、各実験の内容を紹介していきましょう。

【ナノバイオ実験】
人工甘味料アスパルテームの合成を行っています。 
今日行ったのは、アスパラギン酸とフェニルアラニンという2つのアミノ酸をカップリング(連結)させてペプチドを合成する反応です。アスパルテーム合成の山場です。反応に使用する試薬や途中で生成する物質は、空気中の水(水蒸気)と反応して分解してしまうので、反応容器には乾燥剤を詰めた管を取り付けています。また、試薬を加えるのにも、水蒸気に触れないように、注射器(ガスタイトシリンジ)を使います。
1年生にしては難しい実験ですよ。

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【バイオ実験】
バイオ実験の後期は生物学の基礎、顕微鏡観察をしています。

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【ナノ実験】
超微細回路作成に関連したナノテクノロジーの実験です。
金ナノ粒子を、ガラス基板の予備修飾した箇所だけに吸着させて、微細なパターンを形成させます。そこが、「電気が通る」微細配線になります。きちんと配線されているかどうか、マルチメーター(テスター)で調べます。  

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今日の内容は、ちょうど化学、生物、物理といった感じの内容でした。フロンティアサイエンス学部の学生は、このように、いろいろな分野の知識や技術を身につけていきます。そして、将来、それらを融合させることによって新しいテクノロジーを生み出すことのできる人材に育っていくんですね。